ときどきノー・レーズン・サンド日記

ノーレーズンサンド シーズン2 始まる

2021.07.16

仕事で失敗しておしまいだって思った直後、咄嗟に財布を握りしめて走って向かっていたのはケーキ屋だったし、どんなにひどい一日だってお風呂上がりに甘いものを食べれば心が潤った。有事に備えて細々としたお菓子をポケットに忍ばせるのが日常で、そのせいで何度となくリュックサックの底でシガールを粉々にしてきた私は、とにかくお菓子に恩義ありまくり&お菓子のパワーを受け取るばかりの人生を送ってきたわけだが、初めて届ける側にまわれたときは自分の人生にこんなにも素敵な部屋が用意されていたのか、と思うくらい感動した。2018年の春のことだ。

私はノー・レーズン・サンドイッチというお菓子のブランドを、パティシエの後藤さんとデザイナーの田部井さんと一緒に小さく立ち上げた。

きっかけはレーズン嫌いだ。子供の頃からレーズンやプルーンなどの干しぶどうの類を敵視して育った私は、給食で出てくるドライプルーンを秘密裡に持ち帰るミッションの遂行や、人参サラダの陰に隠れるレーズンを一網打尽にすることに精を出す日々を過ごした。

だからこそ、レーズンサンドに憧れた。

渡す人はどことなく得意げで、受け取った人の瞳がぱあっと輝くあの包み。それは時に小川軒であったり、マルセイのバターサンドであったりしたが、いずれも特別なお菓子であることが手に取るようにわかったし、わかりながらもその特別さに自分は一生触れることができないという事実にたまらない気持ちになり、憧れは永遠のものになった。

それから10数年。ある日突然「ノー・レーズン・サンドイッチ!」と思った(本当に思った)。

レーズンサンドは食べてみたいが、レーズンが入っているからみんなみたいに美味しく味わえない……だったら、レーズン以外の果実を挟めばよくない? 夏はレモンとか、秋はマロンとか、挟むやつ変えて。レーズン入りのイエスレーズンサンドも作って。そしたらレーズン好きもそうでない人も、イエスもノーも、みんなで仲良くお茶できるじゃん!

そう思いついてすぐに相談したのが信頼と愛情のパティシエ、後藤裕一さんだった。後藤さんのお菓子は揺るぎない美味しさの軸がありながらも、権威的な気配が一切なく、ただただ食べる人の心に圧倒的な幸せだけを残して消える。すごいぞ後藤菓子。私は後藤菓子の大ファンだったし、だからこそ大好きなパティシエさんに自分の理想のお菓子を作ってもらいたかった。ちょうどお店でもレーズンサンドを売っていた後藤さんは、二つ返事で、いいねやろうよ!と言ってくれた(涙)。

ロゴやパッケージのデザインはアートディレクターの田部井美奈さんが引き受けてくれた(涙×2)。できあがったロゴやパッケージは洋菓子店然としたクラシカルな風合いと、抜けのあるチャーミングさが同居していて、最高に愛しいものになった。

そんなこんなで2018年の春、ノー・レーズン・サンドイッチが爆誕した。ただやりたいからやっている。はじめは部活みたいなノリで、オンライン販売や店頭販売を始めた。

発売すると想像以上にたくさんの人が喜んでくれた。みんなの感想を一つずつ画面越しに眺めていると、えも言われぬ感動がこみ上げた。自分にできることで、みんなが喜んでくれること。そういうものが自分の人生にひとつ増えたことが、本当に嬉しかった。

でも、お届けできる量に限りもあって、がっかりさせてしまうこともあった。買えないです。もっと生産量を増やしてください。そういう声もよく届いた。だからといって、明日から生産量を二倍にすることはもちろんできない。ただでさえ後藤さんと後藤さんのチームが無理を押して作ってくださっているのだ。2ヶ月に1度、販売するのがやっとだった。 

誰も無理をせず、それでいて安定的に、ノーレーズンサンドを続けていくことはできないだろうか。販売を始めてからしばらく経って、そういうことを考え始めた。せっかく作った愛しい大切なお菓子だから、失くさない、続いていく、そういう道を探りたかった。

例えばどこかの大きな会社と組んだり、OEM(外注でお菓子を作ってもらう)も考えた。だけど結果的には、自分たちで工房を作って、自分たちで作れる量を増やして、続けていくのがいいんじゃないか、ということになった。

そうして遂に、この夏ノーレーズンサンドの工房が完成してしまった(笑)。子供の頃の将来の夢に、お菓子屋さんと書いたことがあったけど、ガチでそれが叶ってしまってちょっと震えている。

工房でお菓子を作ってくれるパティシエのリーダーは、これまでも後藤さんのもとでノーレーズンサンドを作り続けてきてくれた榎本レイくんが務めてくれることになった(榎本くんがまた素晴らしい人なのです、また今度ここに書く)。

他にも心強いメンバーが集まってくれたおかげで、本当にたくさんの人の協力のおかげで、これからは定期販売ができることになる。ノーレーズンサンドを多くの人に届けることができる。そのことにとてつもなくわくわくして、最近は新しいことを始めるとき特有の緊張と高揚と不安の混ざり合った感情を日々味わっている(そのせいで夢の中で工房が爆発したりしている)。

定期販売を始めるにあたって、オンラインストアも新しくなった(今までありがとうSTORES!)。ノーレーズンの世界観を汲みに汲み取った超チャーミングで品が良くておいしそうで楽しい感じのウェブサイトはmountが作り上げてくれた。初めてページにアクセスした時は「ノーレーズンのおうちができた!」とめちゃくちゃ興奮した(mountはマジですごい。Webデザインだけでなく販売の仕組みづくりにまで全般的に関わってくれてます)。

パッケージもリニューアルした。念願のオリジナル箱だ。そこにサテンのリボンをかける。リボン……効率的ではないけれどやっぱり外せなくて、これからも想いを込めてひとつずつ結び続ける(パッケージの詳細とかも、また今度ここに書く!色々伝えたさが過多)。

正直、まだまだ生まれたての子鹿状態のノーレーズンサンド第二章です。色々と足りないこともあると思います。でも、末長く愛されるお菓子になれるように。東京銘菓っていつか誰かに言ってもらえたりするように。こつこつとみんなで頑張っていきます。私がお菓子から受け取った幸せを、私もまた誰かに手渡していけたらいいな。

そんなわけで、ノー・レーズン・サンドイッチ。最初の販売が、2021718日から始まります。どうぞよろしくお願いします。

ここまで読んでくれた人いるのかな。長いよな(笑)。読んでくださった方、ありがとうございます。 

平野紗季子

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